二次創作のジャンルについての個人的分類
二次創作の紹介を行っているようなサイトでは、作品のタイプを示すために「オリ主」,「アンチ・ヘイト」,「クロスオーバー」などの作品のタイプを表わす語が使われている (またハーメルンなどでは、この語をタグとして筆者が登録し、読者が検索条件にすることも可能である)。このような作品タイプについて、【何によって分類しているのか】や【分類される作品が持つ特徴】を、二次創作を俯瞰する意味も込めて自分なりに整理してみた。
長さによる分類
- 短編
- 中編
- 長編
この長さは、必然的に『何を書くか』とも関わってくる。
1.短編
その短さの為、ストーリー展開などを原作から乖離させることは行われない*1。原作の物語や人間関係はそのままに、その世界の中で有り得たかもしれない『1シーンの光景』を切り取って描く。よって描写の美しさや登場人物の心情再現が特に重視される。
いわゆる[R18の薄い本]の大部分も、有り得たかもしれない「ベッドでの1シーン」を描いているという意味でこれに当たる。
2.中編
単なる1シーンの描写ではなく、起承転結などの構造を持ったストーリーを描く。よってほとんどの場合は、何らかの形で原作との乖離が作中で発生する(というか中編の作者の大半は、自らが望む「原作と乖離した展開」を発生させるために創作を行っているように思える)。この乖離にいかに説得力を持たせるか、逆に『原作を再現する作品(ノベライズなど)』の場合はこの乖離をいかに感じさせないかが、作者の腕の見せ所となる。
3.長編
乱暴に言えば、複数の中編を連ねた物。一つの中編で生じている「原作と乖離した展開」が次の中編にも影響を与えるため、ストーリーや人間関係が原作とは大きく異なることも多い。個人的には、バタフライ効果などで展開乖離がどんどん波及した結果生じる「どうしてこうなった」感こそが、長編の醍醐味だと思っている。よって原作と異なる要素(オリキャラ、クロスオーバーなど)を含みながら展開は原作を踏襲しているような長編を見ると「手抜きじゃん」「つーかこれ、原作でよくね?」などと思ってしまうのだが……後述する「主役:原作知識有」などのなかには、この『原作から展開を乖離させない』ということ自体を物語の根幹に置いているものもある。
創作対象の範囲による分類
- 原作再構成
- 作中の一コマのみを切り取ったもの
- サイドストーリー
- アフター
- 前日譚
- キャラ流用
原作を元に創られるのが二次創作だが、語られる対象の範囲(どのような期間の、どのような集団についての話を語るのか)は原作と同じとは限らない。よってこのタイプは、原作との対比によって類別できる。
1.原作再構成
原作のストーリーに沿って展開するという、最もオーソドックスなタイプ。描写される期間や集団も、概ね原作と同じとなる。
――たとえばファーストガンダムの二次創作の場合、宇宙世紀0079年のシャア少佐がサイド7を攻撃した9月18日から一年戦争終結までを、ホワイトベースを中心に描いたものがこれに該当する。
ただ創作中で発生する「原作との乖離」により、描写対象も途中から原作とは離れていくことも多い。
中編,長編の大半はこれに該当する。また商業で行われるコミカライズやノベライズなども、広義ではこれに含まれると思う。
2.作中の一コマのみを切り取ったもの
原作ストーリーの存在を前提としたうえで、そこに描かれていない(が、裏で行われていてもおかしくはない)日常シーンや登場人物の会話を描写する。
主に短編。「原作との乖離」は発生せず、既にある設定や人間関係などをより深く掘り下げたり補完したりすることで、原作をより楽しむためのもの……なのだが、そもそもの「前提としている原作ストーリーの人間関係」などが創作者や読者の妄想に塗れたものである場合もある(特にBL,GLなどの場合、その傾向が顕著になる)。
3.サイドストーリー
原作の世界観を前提としたうえで、全く異なる視点から別のストーリーを創り出す。
――たとえばファーストガンダムの場合、同時期にコロニーで行われていた戦闘(ポケットの中の戦争)、オーストラリア戦線で行われていた戦闘(コロニーの落ちたちで)などが、広義のこれに当たる。
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4.アフター
名前の通り、原作が終わった後のお話。
その後の登場人物の日常を短編として描く「作中の一コマの切り取り」寄りのものもあれば、原作終了後をスタートとする中,長編を描く「原作再構成」に似た作品もある。
通常は「原作通りに物語が終了した後」の話だが、創りたい「アフター」のために「原作とは違った終わり方をした世界」を捏造する場合(「本編●話から分岐、●●エンド後のアフター」など)もある。
また「原作通りに物語が終了した後」の「十分にあり得る可能性」として創られている作品の場合、原作側による「アフター」=正式な続編が制作されることで盛大に梯子を外されたもする(例、リリカルなのは……A´s終了後に創られた、「クロフェ」の二次創作→StSでは、クロノはエイミィと結婚)。
ちなみに今でもよく読み返す未完の超大作アフター創作、Happy Days。
多重クロスでオリキャラも多数出てくるのだが……正直どれがクロスの他作品キャラでどれがオリキャラなのか、僕などはほとんど把握できていない(原作とかどうでもよくなるくらい、面白い!)。
5.前日譚
これまた名前通り、原作開始前の話。基本的には原作に繋げるための物語なので、設定などを原作といかに食い違わせないかが作者の腕の見せ所となる。
原作の補完を目的としたものが多い。「ああ、これが原作のあの展開に繋がるのか」といった小ネタを仕込む余地がある一方、原作を知っている読者には最終的な着地点が明白となってしまい、個人的にはその為にややカタルシスに欠ける嫌いがあると思う。
お気に入りの前日譚、魔法学院でお茶会を
6.キャラ流用
原作のストーリーなどは完全に無視して、登場するキャラクターなどのみを流用したもの。「学園●●(原作名)」――原作では敵対勢力に分かれて戦っている登場人物が何故か同じ学校内の同級生などとなっていて、ワイワイと騒いでいるようなもの。
キャラクター性を楽しむことのみを重視したもので、ストーリー性などは薄いものが多い。やりたい放題もここまで来ると、いっそ清々しいように思える。
原作乖離の原因
ストーリーが原作とは異なるように展開していく理由。主なものを列挙したが、一つの二次創作の中に複数要素が混在している場合も多い。
1.なし
そもそも原作を前提とした話の場合、原作からの乖離を発生させる原因も当然存在しない。
2.選択の変更
「アムロが一話で乗ったのがガンダムではなくガンタンクだったら(ガンダム)」「ユーノがジュエルシードを地球まで回収しに来ていなければ(リリカルなのは)」「真珠湾に第二次攻撃隊を放っていれば(太平洋戦争)」など、登場人物が原作とは別の(かつ、そうしていても不思議でない)選択を行うことで、ストーリーを分岐させる。
下記の様々なIF要素を採用している場合でも、その影響がこの「選択の変更」へと繋がって、更なる原作からの乖離,原作崩壊を引き起こすことも多い。
3.人間関係の変更
原作で設定されている人間関係を変化させた状態で、物語をスタートさせる。「主人公と○○が開始時から恋人関係だったら」「主人公とライバルの関係が逆だったら」など。
変化させた関係の効果により、後記の「既存キャラクターの改造」も併用される場合もある。また大幅な変更にもかかわらず敢えて性格などをそのままにして、「人間関係の変更」によって生じる原作とのギャップを作品の面白さとしている作品もある(ただしこれが可能なのは、ギャグ傾向が強い場合。シリアス作品でこれをやると、登場人物の立場と性格がチグハグでしらける危険性がある)。
4.オリジナルキャラクターの追加
原作には存在しないオリジナルキャラクターを混入させる。
オリジナルキャラクターの役割としては、大きく分けて
・「選択の変更」を発生させるための使い捨てキャラ
・その後も物語で重要な役割を果たすレギュラーキャラ
・その物語の中心を張り続ける主人公キャラ
の三通りが考えられる。最近では三番目の主人公キャラ(いわゆる「オリ主」)に更に特別な能力*2を持たせたり「原作知識」を与えたりした上で、読者(あるいは作者)の自意識投影対象として作中で傍若無人な振る舞いを行わせるタイプの話が、旧二次ファンなどを中心に一大勢力を誇っている。
5.イベント,事件,異設定の追加
大きなイベントや事件を引き起こし、その影響に引きずられるように原作の流れを変える。「金融危機により〜」「隕石が落ちて来て〜」など、原作とは全く脈絡がないが影響を受けないわけにはいかない重大問題で、元々のストーリーの根幹を強引に変容させる手法である。また後述する「クロスオーバー」の場合、「クロスする作品との接触」自体がこの事件となることもある。
ギャグや一発ネタとしては割と見るが、シリアスでやる場合はよっぽど設定を固めておかないとグダグダになってしまう。
二次創作ではないが、
たしか木星が爆発したせいでレーダーが使えなくなって、それが原因で第二次世界大戦が変化した(いや、明らかにそれだけが原因ではないが)、という作品がこちら
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6.既存キャラクター,既存勢力などの消去
原作に加えるのではなく、原作に存在していた要素を引いていくという方法。消去する対象としては人や組織、兵器や技術など様々なものがあり得る。
原作中で重要な役割を果たしていた人物を消去する場合には、元々存在しなかったことにするだけでなく、冒頭で「原作では存在しなかった事故など」を引き起こしてそれで退場させる、という手法もある。
7.既存キャラクターの改造
原作で存在するキャラクターの性格を改変したり、特殊な能力を追加したりする*3。やり過ぎた場合は魔改造とも呼ばれ、そのキャラクターを消去して代わりにオリジナルキャラクターを入れたのとほとんど同じ状態となる。
魔改造されたキャラクターは大抵その二次作品の主役となり、作者,読者の自意識投影対象として作中で傍若無人な振る舞いを行うこととなる。
最近では「魔法先生ネギま!」の二次創作で千早魔改造モノが興隆を誇っていた。
↓
桂樹通信様 千雨魔改造SSリスト
8.クロスオーバー
文字通り、異なる複数の作品が一つの話の中で交わるもの。
タイプとしては、
・複数の作品の出来事が元々同じ世界で起きていたものである、とする世界観共有型
・何らかの原因で異なる作品の世界が繋がる、という接触型
・一方の作品の登場人物一人(あるいは複数人)が他の作品世界に訪れる、という来訪者型
に大別される。
中でも数が多いのは来訪者型で、この場合の「他作品からやって来た登場人物」は大抵その二次作品の主役となり、作者,読者の自意識投影対象として作中で傍若無人な振る舞いを取ることとなる。
9.転生,憑依,漂流,逆行
・転生→その作品とは異なる世界の人間*4が、作品内の人間として生まれ変わる(赤ん坊からやり直す)こと。
・憑依→その作品とは異なる世界の人間が、作品内で生きている人間(既にそれなりの年齢)の意識を乗っ取ること。
・漂流→その作品とは異なる世界の人間が、体ごと作品内にワープすること。
・逆行→その作品内の人間が、その時代より前の時代の同作品内に転生,憑依,漂流すること。
転生,憑依,漂流,逆行を行った人物の大半は、これから作中で起こることについての知識(所謂「原作知識」)を持っている。
このため彼らは、
・知っている「原作の流れ」を変えるべきか変えないべきか
・「原作の流れ」を知っていることを周囲の人たちに話すべきか話さないべきか
・自分は周りの人たちを、「知っている原作の中の作り物」としてしか見れていないのではないだろうか
等の悩みをほぼ自動的に抱えることとなる。
また転生,憑依の場合は、
・自分が転生,憑依したことで、元々存在するはずだった人間を殺してしまったのではないか
・転生,憑依する前のことを覚えているという異常な自分は、周りの人間(特に両親)にどう接するべきなのだろうか
という葛藤もそこに加わる。
さらに転生,憑依,漂流,逆行を行った人物は大抵その二次作品の主役となり、作者,読者の自意識投影対象として作中で傍若無人な振る舞いを取ることとなる。
主役(描写の中心となる人物)
- 原作の主人公と同じ
- 原作登場人物のうち、原作では主人公でなかった人物を主役とする
- オリジナルキャラクターを主役とする
『作者,読者の自意識投影対象として作中で傍若無人な振る舞いを取る』確率は、
「オリジナルキャラクター」>「原作登場人物」>「原作の主人公」。
これはこのタイプの話が、「原作で成功した人物を貶めることで、作者,読者が優越感に浸る」という構造を取っているためである。もちろんオリジナルキャラクターが主人公でも通常の登場人物と同様の扱い(成功もすれば失敗もする、失敗すれば非難される)である物もあり、逆に原作主人公でも特殊な能力を追加で与えた上で傍若な振る舞いを取らせる類の二次創作もある(特に原作における主人公の扱いが酷い場合、この傾向は強くなる)。
特徴的な作品展開による分類
- 最強もの
- 断罪
- アンチ
- ヘイト
- ダーク
- 鬱
1.最強もの
主人公が『作者,読者の自意識投影対象として作中で傍若無人な振る舞いを取る』作品。最低系とも呼ばれる。
2.断罪
作中で特有の登場人物(あるいは勢力)の非が一方的に糾弾され、かつその非難が正当なものと作中で評価されている作品。
3.アンチ
原作の主張や登場人物の在り方に思うところがある作者が、「それらへの反対意見(アンチテーゼ)」を主張するために創った作品。原作と比較することが前提であるため、作品には相応の客観性が求められる。
4.ヘイト
原作あるいは原作登場人物に嫌悪を抱いた作者が、その思いをぶちまけることで出来上がる作品。作者と同様の趣向を持つ読者のみを想定しているため、作品の客観性は求められない。
「最強もの」であったり「断罪」で会ったりすることも多い。
5.ダーク
原作の雰囲気を無視して、登場人物が壊れたり酷い目に遭ったりする作品。「鬱」に比し、肉体的なダメージが強調されることが多い。
登場人物が酷い目に遭うという点では、「ヘイト」とも共通していると言える。だがその被害が正当な理由(たとえ客観的にそう見えなくても、作者はそう考えている)に基づくものである「ヘイト」に対し、「ダーク」では不条理に被害が発生するという点でむしろホラー的要素が強い。
6.鬱
登場人物が失敗したり辛い目に遭ったりする作品。「ダーク」に比し、精神的なダメージが強調されることが多い。
登場人物が辛い目に遭うという点では、「ヘイト」とも共通していると言える。だがその被害を与えることで読者の喝采を得ようとする「ヘイト」に対し、「鬱」の場合は被害を受ける登場人物側に読者を共感させ、同情や遣る瀬無さを感じさせることを目的としている。
作品全体だけでなく、その一部分だけについて言われる場合もある(●話は鬱展開です、など)。
まだまだ他にもタイプはあると思うけど、とりあえずここまで。
思いついたら、また追記していくかも。